賃貸管理でよくあるクレーム・トラブル6選
2020.06.25
賃貸契約書は、入居手続きを形式化する単なる書面ではなく、将来のトラブルを防ぎ、安定した賃貸経営を導くための実務指針です。
特に不動産会社や管理会社にとって、契約書の内容が曖昧・不備がある・貸主にとって不利なまま締結してしまった、というケースは、退去時や更新時、滞納発生時などに大きな損害やクレームにつながります。
本記事では、賃貸契約書を扱う担当者が「何を確認すべきか」「どこに落とし穴があるか」「トラブル発生時に備えてどう作るか」を整理します。
契約前だけでなく、更新・退去時を含めたチェックポイントを押さえておきましょう。

賃貸契約書(建物・土地などの賃貸借契約書を含む)は、貸主が借主に物件を使用・収益させることを約し、借主が賃料などの対価を支払うことを約する契約の書面化です。
民法第601条において、「賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる」旨が定められています。
不動産賃貸借の場合、さらに借地借家法等の特別法が適用されることが多く、貸主・借主ともに権利・義務の理解が必要です。
また、国土交通省 が提示している「賃貸住宅標準契約書」は法的義務ではありませんが、合理的な契約締結を促進するモデルとして広く活用されています。
不動産会社としては、契約書の役割を理解しつつ、社内テンプレートやチェックルーチンを整備しておくことが、トラブル防止、信用維持につながります。
実務上、賃貸借契約の際には「契約書」と「重要事項説明書(重要事項説明)」という2つの書面が関わってきます。
契約書:貸主・借主の合意内容を記載し、賃貸借契約を法的に成立させる書面。
重要事項説明書:不動産会社(宅地建物取引業者)が、借主に対して物件の状態や契約の条件など重要な事項を説明し、説明を受けた証拠として書面化したもの。
例えば、住宅賃貸借では「重要事項説明書の内容が契約書に反映されているか」「説明を受けた上で契約締結がなされているか」がトラブル防止において重要です。
注意すべきは、契約書の内容が説明書と異なる場合、契約書の内容が優先されることが一般的という点です。
不動産会社は、説明書作成・交付と契約書作成・記載整合性確認を社内業務フローに組み込むことが求められます。

以下では、賃貸契約書に記載すべき主な項目を整理し、チェックすべきポイントを項目別に解説します。
社内チェックリストの基礎としてご活用ください。
賃貸契約書において最初に確認すべき項目が、物件の基本情報です。
具体的には、物件所在地(都道府県、市区町村、番地)、建物名、部屋番号などを正確に記載する必要があります。
この情報に誤りがあると、契約の有効性そのものに疑義が生じるだけでなく、後々のトラブルや修正対応の原因となるため、細心の注意が求められます。
また、建物の種類や用途(マンション、アパート、戸建てなど)、構造、築年数といった補足情報も記載しておくことで、契約書の信頼性を高め、入居後の誤解やクレームを未然に防ぐことができます。
実際に、番地の誤りや建物名の省略といった軽微なミスが、契約後の再確認や修正依頼につながることが少なくありません。
そのため、契約書を作成する際には、物件資料や登記簿謄本とのクロスチェックを行うことが、不動産会社としての基本的なリスク管理といえるでしょう。
契約書には、借主が物件をどのような目的で使用するかを明確に記載することが重要です。
一般的には「居住用」「事業用」などの区分があり、それに応じて契約条件も変わります。
使用目的が明示されていない場合、借主が想定外の用途で物件を利用し、貸主や他の入居者とのトラブルに発展する恐れがあります。
例えば、住居用として契約された物件を事務所や民泊などに転用された場合、近隣住民との関係悪化や契約違反としての解約事由になりかねません。
そのため、契約書には「住居専用」「事業用不可」「無断転貸禁止」など、利用条件を明記し、借主に対して口頭でも説明を行うことが求められます。
使用目的と利用条件を明確化することで、物件の管理方針や周辺環境との調和を保ち、貸主・借主双方にとって安心・安全な契約関係を築くことが可能となります。
賃貸契約において、契約期間とその後の更新条件は、貸主・借主双方にとって重要な取り決めです。
契約書には「契約開始日」「契約終了日」を明確に記載し、あわせて自動更新の有無、更新手続きの流れ、更新料の有無についても明記する必要があります。
注意すべきは、定期建物賃貸借契約と普通借家契約の違いです。
定期契約の場合、期間満了で契約は終了し、原則として更新されません。
この場合、借主に対して事前に書面で通知する義務があるため、契約書にその旨を明記しておくことが必要です。
更新時に条件の変更(賃料改定や保証人の再設定など)がある場合は、その条件と手続きを契約書内に記載しておくことで、トラブル防止につながります。
更新時期が近づいた際に適切な対応が取れるよう、契約期間の管理をシステムや台帳で把握しておく体制づくりが求められます。
契約書には、賃料の支払方法と支払期日を明確に記載する必要があります。
一般的には「毎月○日までに指定口座へ振込」「口座振替による支払い」などが用いられますが、記載が曖昧であると、支払い遅延や未払い時の対応が困難になります。
支払期日が土日祝日に当たる場合の取り扱い(翌営業日払い可否)や、支払遅延時の遅延損害金の有無・利率についても、具体的に定めておくとトラブルの未然防止につながります。
入居時に借主へ支払方法の説明を徹底し、振替登録の確認や支払い案内を確実に行うことも大切です。
支払い条件を明文化し、借主に周知しておくことで、賃料トラブルのリスクを大きく減らすことができます。
家賃以外にも、毎月発生する費用として「管理費」「共益費」「駐車場使用料」「町内会費」などが存在します。
これらの費用は、家賃と合わせて請求されることが多いため、契約書にはその内訳を明確に記載することが重要です。
例えば、「家賃:80,000円、共益費:5,000円、駐車場:10,000円」といった形で項目ごとに金額を明示することで、借主にとって分かりやすくなり、後の誤解を防ぐことができます。
この費用に消費税がかかるか否か、変動する可能性があるか、更新時に改定されるかといった点についても契約書上で明確にしておくことが望ましいです。
共益費の定義が不明確な場合、「何が含まれているのか(例:エレベーター維持費、清掃費など)」で借主から問い合わせが発生することもあります。
毎月の請求内容について一貫したルールを持ち、借主への事前説明や契約書記載を徹底しましょう。
賃貸契約の初期費用は、借主にとって契約時の大きな負担となるため、契約書にその内訳と金額を明確に記載することが必要です。
主な項目としては、敷金・礼金・保証金・前家賃・仲介手数料などがあり、それぞれの目的と取り扱いが異なります。
敷金や保証金については、退去時の精算に関わるため、「返還条件」「償却(差引)金額の有無」「償却理由」などを明示することが重要です。
2020年の民法改正により、敷金の返還については「賃貸借契約終了時に未払い賃料などを差し引いたうえで、残額を返還する」といったルールが法的に定められました。
礼金については、返還義務のない費用であることを契約書に明記し、借主に誤解が生じないよう事前に丁寧に説明することが望まれます。
保証金を預かる場合も、保証の範囲(例:滞納時の補填、原状回復費用の充当)と返還方法を具体的に定めておくと、トラブル防止に効果的です。
契約書には、物件の所有者である貸主の情報を正確に記載する必要があります。
記載すべき内容は、氏名または法人名、住所、連絡先であり、法人が貸主となる場合は代表者名や法人番号の記載も推奨されます。
貸主が物件の管理を第三者に委託している場合は、管理会社の名称、所在地、電話番号を契約書に明記することで、借主からの連絡や緊急対応をスムーズに行えるようになります。
入居後のトラブルや修繕依頼の窓口が不明瞭だと、借主の不満につながりやすいため、役割分担を契約書内で整理しておくことが重要です。
貸主と管理会社が異なるケースが多いため、借主に対して「契約に関する連絡は管理会社が対応する」などの説明を明確に行い、混乱を避ける配慮が求められます。
契約書には、借主の氏名(法人の場合は法人名および代表者名)、住所、連絡先を正確に記載する必要があります。
加えて、勤務先や緊急連絡先の情報を記載しておくことで、万一のトラブル時にも迅速な対応が可能になります。
個人契約の場合は、保証人の情報(氏名、住所、連絡先、保証内容)も記載することが一般的です。
近年は保証会社の利用が主流になりつつありますが、連帯保証人を設定する場合には「連帯保証」の明示と、保証範囲(賃料のみか、原状回復費用も含むか)を明確にしておく必要があります。
なお、2020年の民法改正により、個人保証契約を結ぶ際には「極度額(保証の上限金額)」を契約書に記載しなければ無効とされるケースがあります。
したがって、保証人を立てる場合は、保証の法的有効性にも十分な配慮が求められます。
契約書には、契約期間中や更新時、退去時の条件を規定する「契約条項」が含まれます。
これには中途解約の通知期間(例:1ヶ月前予告)、違約金の有無、契約解除の事由、退去時の明渡し方法などが含まれます。
通常条項に加えて、契約内容を補足・変更する「特約事項」を設けることもあります。
たとえば「ペット飼育可」「楽器使用可」「事務所利用禁止」など、物件の特性や貸主の意向に応じた条件を記載することで、トラブルの予防につながります。
ただし、特約事項を設定する際は、借主に一方的に不利となる条項(例:敷金全額償却、修繕費用全額負担など)は、消費者契約法や借地借家法により無効とされる可能性があるため、法的整合性を事前に確認する必要があります。
近年では、契約書のテンプレートをそのまま流用して特約が実態と合っていないケースも多く、実務に合わせた記載内容の調整が重要です。
契約書作成時には、貸主・借主双方に公平で合理的な内容となっているかを慎重に見直すことが求められます。

賃貸契約書は、貸主と借主双方の合意内容を法的に証明する重要な書類であり、その内容次第でトラブルの発生リスクや、万が一の法的対応の難易度が大きく変わります。
不動産会社として契約書を作成・確認する際には、以下のような点に十分留意する必要があります。
1.記載内容の正確性と整合性の確認
契約書の基本項目(物件情報、金額、契約期間など)に誤記があると、契約無効や後の修正対応の原因となります。
入力ミスや記載漏れを防ぐためにも、必ずダブルチェック体制を導入し、物件資料・重要事項説明書との整合性を確認しましょう。
2.最新の法令に対応しているか
民法や借地借家法、消費者契約法など、契約に関連する法律は随時改正されています。
2020年の民法改正以降は敷金の返還ルールや保証契約の極度額の明示義務など、記載内容に直接影響を与える変更がありました。
テンプレートや条項が古いままだと法令違反となるリスクがあるため、定期的な見直しが必要です。
3.特約条項の適法性と妥当性
契約書に独自の特約を盛り込む際は、内容が借主にとって著しく不利でないか、消費者契約法や借地借家法の趣旨に反していないかを確認しましょう。
例えば、「原状回復費用を全額借主が負担する」といった条項は、場合によっては無効と判断される可能性があります。
特約を設ける際には、法的な妥当性と実務の実情を照らし合わせた上で記載することが重要です。
4.電子契約・デジタル化の対応
近年では、紙の契約書から電子契約への移行が進んでおり、契約書の作成・保管・締結方法も多様化しています。
電子契約を導入する場合は、電子署名やタイムスタンプの整備、データのバックアップ体制、システム選定の法的適合性なども検討しましょう。
電子契約を適切に運用することで、業務の効率化と契約情報の一元管理が可能になります。
5.借主への丁寧な説明と合意形成
いかに契約書の内容が正しく記載されていても、借主がその内容を理解していなければ、のちに「聞いていなかった」「知らなかった」というトラブルに発展するリスクがあります。
重要な条項(解約条件、更新料、原状回復など)については、契約締結時に口頭でも丁寧に説明し、同意を得た旨の記録を残すことが推奨されます。
賃貸借契約におけるトラブルは、契約締結前から退去後まで、さまざまな場面で発生します。
不動産会社としては、事前に起こりうるリスクを想定し、契約書への明記や借主への説明を通じて未然に防ぐ体制を整えることが重要です。
ここでは、よくあるトラブル事例とその対策を、時系列ごとに解説します。
①入居前のトラブル
【事例】
・契約時に説明された設備が設置されていない
・鍵の引き渡しが遅れて入居日に間に合わなかった
・住居用契約で実際には事務所として使用されていた
【対策】
・設備の有無や引き渡し日、用途の確認事項を契約書と重要事項説明書の両方に明記する
・引き渡し前に設備チェックリストを作成し、貸主・管理会社間で共有する
・使用目的の条項を明文化し、違反時のペナルティも明記することで、用途違反の防止につなげる
②賃料支払いのトラブル
【事例】
・借主が賃料を滞納し、督促にも応じない
・支払期日に振り込まれず、遅延が常習化している
・支払方法の認識違いにより未払いが発生
【対策】
・契約書に支払期日・支払方法・遅延損害金の有無と利率を明記し、借主に説明を行う
・初回支払い時に口座振替の登録完了を確認する体制を構築する
・支払遅延が発生した場合の対応マニュアルを社内で整備し、迅速な督促と法的対応への連携行う
③更新時のトラブル
【事例】
・更新手続きを忘れたため、契約が失効してしまった
・更新料の有無で借主と貸主の認識が異なった・更新時に家賃を一方的に値上げし、借主からクレームが入った
【対策】
・契約書に「自動更新の有無」「更新時の通知期限」「更新料の有無と金額」を明記する
・契約満了日を管理システムで一元管理し、更新案内を自動送信できる仕組みを導入する
・更新時の条件変更(家賃の改定等)は、事前に借主と合意形成を図り、書面で確認を取る
④退去時のトラブル
【事例】
・敷金の返還を巡って借主と貸主の間で争いが発生
・原状回復費用の負担範囲について意見が食い違った
・退去後の鍵返却が遅れ、次の入居者の契約に影響が出た
【対策】
・原状回復に関する国交省のガイドラインに基づき、契約書と説明書に負担範囲を明示
・敷金の返還ルール(未払い分との差引、償却額の記載など)を契約書に明記し、借主へ説明
・退去日の通知期限、立ち合い日程、鍵返却の期日を明文化し、事前に手続きマニュアルを共有
・退去チェックリストを用い、現状確認と写真記録を行うことで証拠を残す
トラブルの多くは「契約書への記載不足」「説明の不徹底」「借主との認識の相違」が原因です。
不動産会社は、契約の透明性を高め、借主の理解と合意をしっかりと形成することで、不要な紛争を防ぐことが可能になります。
トラブル発生時に備えて、記録の保存・証拠の確保・法的手続きへの対応体制も整えておくことが、安全・円滑な賃貸管理には欠かせません。
賃貸契約書は、貸主と借主の権利・義務を明確にし、トラブルを未然に防ぐための重要な書類です。
不動産会社としては、契約書の記載内容を正確に管理し、最新の法令に対応した形で運用することが必要なのです。
本記事では、契約書に記載すべき主な項目とチェックポイント、作成時の注意点、そしてよくあるトラブルとその対策を実務目線で整理しました。
記載ミスや説明不足といった小さな見落としが、大きなクレームや法的トラブルにつながることもあります。だからこそ、契約書の整備と借主への丁寧な説明は、不動産会社の信頼性を高める鍵です。
契約業務を標準化し、常に見直しと改善を行う体制を整えることで、安定した賃貸管理と顧客満足の両立を目指しましょう。
関連記事:賃貸契約における連帯保証人の役割と2020年民法改正による新ルール
-----------------------------------------------------------
不動産テックのTATSUJIN JOURNALでは、最新の不動産トレンド、不動産テック、賃貸仲介・売買の業務改善事例、セミナー情報などお役に立つ情報を日々発信しています!
日々変わりゆく、時代の変化に応じた取組みが今まで以上に必要となってきました。
そこで、賃貸管理会社の皆様のお悩み、課題を解決するために、不動産に関する最新の情報をご提供しております。
その他、賃貸管理会社の皆様にお役に立てる情報をメルマガ・LINEにて配信しております。
こちらもぜひご登録お願いいたします!
-----------------------------------------------------------